2013年3月1日金曜日

シンガポールとKLが高速鉄道で90分

 90分でクアラルンプール(KL)からシンガポールまで移動ができる。これはとても大きなことだ。
現状では、この区間をバスや鉄道は6時間(360分)、バスは5時間(300分)、飛行機が結んでいる。
だいたいKLIA(クアラルンプール国際空港)からクアラルンプール市街がKLIAEkspressという特急列車で28分で結ばれ、シンガポールのチャンギ空港から市街まではMRTで30分かかる。その他に搭乗手続きなどの時間を足すと、やはり高速鉄道が一番早い。

 
この計画はシンガポールのリー・シェンロン(李顕龍)首相とマレーシアのナジブ首相の非公式会談後の記者会見により発表されたものだ。両首相はこのプロジェクトを"Game Changer""One Vertual Community"と描写し、ビジネスや生活、余暇の過ごし方を大きく変えるものと考えているようだ。この計画では早ければ2020年までに高速鉄道の完成を目指している。

建設に関する憶測

 
高速鉄道の建設に関して様々な憶測が飛び交っている。まずこのプロジェクトに日本、中国(川崎重工が技術供与した南方車両?)、ドイツ(シーメンス?)などの高速鉄道メーカーが興味を示している。

また、インフラの建設に関してはコストの安い中国企業が有利だとか、シンガポールのコングロマリットであるKeppel CorporationやSembcorpがマレーシアの企業と合弁会社を組むとか色々である。
詳細に関しては発表されてはいない。

実際にシンガポールでコストの安い中国企業が新しいMRT(通勤電車)を作っていたりする。
聞いた名前では「上海隧道工程股份有限公司」がトンネルを作り南方車両製のMRTも走っているのかもしれない。

あまり関係はないかもしれないが、日本企業は後先のことを考えず技術をヤバイ国にポイポイ売ってしまい、こういうビジネスチャンスをものにできるのだろうかと心配になる。今は中国がかなり競争力をつけている。

高速鉄道VS飛行機

一般的に利用客は高速鉄道での移動時間が4時間を越える場合、航空機を移動手段として選ぶとされている。また、4時間以内の場合は高速鉄道を選ぶ可能性が高い。日本では新幹線を300kmで走らせ、東京と青森の間が3時間で結ばれた。新幹線は4時間の壁を越えようとしている。
その一方で航空会社は格安航空会社を設立するなどして新幹線と競合している。

シンガポールとKLの状況は逆である。以前はKLからシンガポールまでは格安航空会社が飛び回っていた。KLIAからAirAsiaが、よりKL市街に近いスバン空港からはFireflyが既に飛んでいる。
そこに高速鉄道が競争相手として参入するので、非常に興味深い戦いになるだろう。

LCCは存在しなかったが、航空との競争があった台湾高速鉄道では、高速鉄道が圧勝し、その結果、遠東航空が破綻した。高速鉄道開業以前は航空の輸送実績は800万人以上で、2都市間の輸送実績では世界で3番目であった。ちなみに在来線の輸送実績は265万人強である。ある意味飛行機の輸送人数は高速鉄道の見込み顧客の人数として計算できるかもしれない。ただし、LCCが登場した現在では状況は異なる。

高速鉄道と飛行機、高速バスの違い

鉄道と飛行機、バスの違いは、鉄道は容易に撤退できない。鉄道の運営会社とインフラ保有会社が上下分離されていれば話は別かもしれないが、鉄道は収支がプラスマイナス0の場合は輸送を継続し続けるとされる。また、高速鉄道が飛行機より有利な点は、気軽に乗れる。悪天候に強い(スコールにも?)。そして頻繁に走るということだと思う。あとは車内を自由に歩けるところとか、行きたいときに綺麗なトイレに行ける所もポイントが高い。

マレーシアの鉄道

マレーシアの鉄道は日本の鉄道事情と同じく狭軌だ。ただし軌間は異なる。そのため、線路幅の広い高速鉄道を作るときは、既存の在来線の線路が使用できず、新しく鉄道を作り直す必要がある。日本の新幹線のように。また、マレー鉄道は、現状シンガポールの北の端のウッドランズチェックポイントを出発し、ジョホールバルに入り、ものすごい遠回りをしてクアラルンプールに至る。
また、シンガポールの鉄道駅があるウッドランズから、シンガポールの中心部まではかなり遠い。
 MRTで30分はかかるのではないだろうか。

マレーシアは連邦国家である。そのため各州にスルタンという首長がいる。彼らが地元に駅が欲しいといえば駅ができるのなら、おそらくジョホール、マラッカ、ヌグリ・スンビランと最低でも駅は3つはできそうだ。高速鉄道がシンガポール中心部まで乗り入れ、駅の数が多くなり、既存の駅の他に新しく新幹線の駅を作るとなると、状況は台湾高速鉄道や日本の新幹線と似通ってくる。

高速鉄道と国境

シンガポールのオフィス街に近いタンジョン・パガー港の隣に駅の跡地がある。これは以前シンガポールに乗り入れていたマレー鉄道の駅の跡である。線路は廃線になり、鉄道は前述のウッドランズチェックポイントまで後退した。それ以前では、マレーシアとシンガポールは鉄道の出入国の審査についてかなり揉めた。マレーシアは鉄道施設はマレーシアの主権下(マレーシア国営の鉄道)なので、タンジョンパガー駅で出国審査をしたが、シンガポールは、シンガポール国内に入ってすぐにあるウッドランズチェックポイントで入国審査をした。

高速鉄道で重要なのは国境の取り扱いである。せっかく高速で走れるにもかかわらず途中で列車を降ろされて出入国審査をしては、速達効果には悪影響になる。

シンガポールのニュースでは、国境を越える列車として英仏海峡トンネルを通り、パリとロンドンを結ぶユーロスターが例に挙げられる。確かこの列車の場合、パリからロンドンに行くときは、パリでフランスの出国審査とイギリスの入国審査をやってしまうのではなかろうか。また両国はEUに加盟しているということもあるので、国境は他の国と比べて比較的容易に通過できるのかもしれない。

高速鉄道はマレーシアとシンガポールの経済的な結びつきを深化させる存在として注目されているが、両国の国境の形や両国関係を変えるのだろうか。

現在マレーシアの経済目標であるWAWASAN2020もあり、シンガポールも成長の形を問われつつある。そんななか打ち立てられた今回の計画を通して今後の両国関係がどのように変化するか注目していきたいと思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿